◆心華獨笑◆ 
第四百四九稿
 「お木曳」




貴重な体験



 7月の終わり、伊勢まで旅行した。夫婦二人で遠方への泊まり旅行は久々だ。名古屋に住んで居た頃は、伊勢はそれほど遠い場所ではなかった。しかし、八ヶ岳からとなると、ずいぶん遠く感じ、遥々来たぜという思いだった。JRを乗り継ぎ、近鉄に乗り換え、片道6時間かかった。



 

夫婦二人で仲良く参加





久しぶりの電車旅
 なぜ伊勢まで行ったのか。それは伊勢神宮の祭事である「お木曳」に参加する為だった。

 「お木曳」とは何ぞや。この時期テレビのニュースなどで頻繁に取り上げられ、先日は天皇家の長女の愛子様が、この「お木曳」に参加したのが話題になっているので、ご存じの方も多いと思う。

 「お木曳」は、20年に一度の神宮式年遷宮の為の御用材を奉曳する伊勢の民俗行事。伊勢市の無形民俗文化財に指定されている。



 

到着早々二見浦へ





まずはお参り
 なぜ自分達夫婦が「お木曳に」参加出来たのか。それは御縁である。

 名古屋に住んで居た頃、小角堂というバーをやっていた。その時のお客さんに土田さんご夫婦がいて、とても仲良くなり、プライベートでもお互いの家で食事会をしたりしていた。八ヶ岳に移住してからも、わざわざ八ヶ岳の我が家に遊びに来てくれた。

 ご夫婦は二人とも伊勢出身で、特に奥様のご実家は二見浦の夫婦岩のすぐ近くに有る土産物屋だった。





夫婦岩 
 

龍宮社の龍神様にもお参り





今回のお宿 





なかなか綺麗で良いホテル
 去年の或る日突然、土田さんから連絡が有り、「来年の夏に伊勢神宮のお木曳があるので、一緒に参加しませんか?」と誘って戴いたのだ。

 その時は「お木曳」の事をよく知らなかったし、ずいぶん先の話なので、まあとりあえず、なんとなく、ぼんやりと一応参加したいという返事をした。

 そして年が明け、冬が終わり春が過ぎる頃、土田さんから様々な情報が来るようになった。ご丁寧に、資料まで郵送して下さった。



 ぼんやりしていた自分達も、徐々に現実感が出て来た。参加するにあたって、準備する物もあり、それは全身無地の白を身に着けるということだった。シャツ、ズボン、くつ、はちまきに至るまで、白一色でなくてはならないという。

 これらを揃えるのに、けっこう苦労した。ワンポイントもマークもラインも何も入っていない無地の白一色というのは、なかなか探しても無い物だ。

 それらの衣装をやっと買い揃えた時には、すでに本番一週間前になっていた。


ホテルの入口の幟



 

ホテル周辺
 

古いお土産物屋が並ぶ





どの建物も魅力的
 いよいよ出発当日。もちろん事前に電車の時刻は調べて有り、乗り継ぎもバッチリ決まっている。小淵沢駅から午前10時頃に乗車して、近鉄伊勢市駅に到着するのが午後の4時頃だ。

 伊勢市駅には、土田さんご夫婦が車で迎えに来てくれていた。土田さんも今は名古屋に住んで居るのだが、この日は午前中に車で伊勢入りしていた。

 車に乗せてもらい、まずは二見浦の夫婦岩に連れて行ってもらった。



 

土田奥様のご実家 「錦波軒」





錦波軒の店内の様子
 二見浦の二見興玉神社に参拝して、明日のお木曳に参加する前の禊をする。更に境内社の龍宮社に参拝して、ホテルにチェックイン。今回利用するホテルは、キャッスルイン伊勢夫婦岩。

 チェックインを済ませ、ちょっとホテルの周りを散歩する。ホテル周辺は、古い宿屋や土産物屋が立ち並び、その古民家の佇まいはとても雰囲気が有る。何軒かの土産物屋をひやかして、お土産を買い、ホテルへ戻った。

 そして、約束の時間が来て、土田さんのご実家へ向かう。土田さんのご実家の土産物屋はホテルから歩いて1分の位置。今夜はここで夕食をお呼ばれしていたのだ。





土田さんご夫婦と 


伊勢の御馳走がいっぱい! 



 伊勢の家庭で普段から普通に食べられているという、様々な御馳走をふんだんにご用意して戴いていた。我々にとってはどれもこれも珍しく、そして美味しいものばかり。ついついお酒がすすんでしまいそうなのだが、そこはガマン。明日はお木曳本番なので、二日酔いなど許されない!

 たっぷり食べて、ほどほどに呑んで、大満足して御暇した。明日の朝は8時に集合。しっかり休んで体調を整えなくては。


ホントに美味しいものばかり





では御暇致します 


ごちそうさまでした 





準備万端! 





さあ!いくぞー!!
 翌朝。準備してきた白装束を身に着け、土田さんが二見町連合に申し込んでくれていた法被を羽織る。さあ!出発だ!

 ホテルをチェックアウトしようとフロントへ行けば、チェックアウトする人々の殆どが白装束に法被姿。おお、夕べ泊まっていた客の殆どがお木曳の参加者だったのだな。

 土田さんご夫婦と合流して、バス乗り場へ向かう。お木曳の出発点となる五十鈴川の河畔まで、何十台もの観光バスでお木曳参加者を運ぶのだ。

 お木曳には奉曳車に乗せて外宮まで奉曳する「陸曳」と、五十鈴川を遡行して内宮まで奉曳する「川曳」があるのだが、我々が参加させて戴くのは「川曳」の方。



 

バス乗り場へ向かう途中


お福餅と赤福の店が並んでいる! 



 

群がり立つ幟





わくわく
 しばらくバスに揺られ出発地点到着。ものすごい数の人々が始まりを待っている。

 伊勢の各町内がそれぞれのグループに分かれて順番に出発して行く。我々は二見浦茶屋区というグループ。土田さんのご実家の町内の氏子の仲間に入れて戴き、神領民として参加したわけ。

 河原で祝詞が上げられ、儀式が執り行われ、遷宮の御用材が次々と五十鈴川へ降ろされる。そして各町内ごとに順次出発して行く。我々の出発は、午前10時頃となった。



 

まだかな〜まだかな〜


やる気満々 
 

順番を待つ


各材ごとに祝詞が上げられ木遣りが唄われる 





お木曳の始まり 





さあ!我々の番だ!
 ついに順番が回って来て、じゃぶじゃぶと川へ入る。完全に熱中症注意の気温の中に有って、川の冷たさは生き返るようだ。

 太いロープに手をかけ、合図を待つ。法螺貝が吹き鳴らされ、木遣りが唄い上げられ、いざ出発。

 エンヤーエンヤーの掛け声とともに、ゆっくりと動き始める。



 

いくでー!
 

いくでー!
 

エンヤー! エンヤー!


水の掛け合い 



 お木曳はゆっくりゆっくり進む。途中止まって、法螺貝が吹き鳴らされ、木遣りが唄われる。そして、合図で一斉に水を掛け合う。これを何度も何度も繰り返す。当然、頭の先から足元までずぶ濡れになる。

 しかし、炎天下の元で行われているので、とにかく水が気持ちイイ。五十鈴川の流れは本当にゆるやかで、お木曳で掻きまわされ濁っているのだが、神聖なる川なのだ。水の掛け合いは、これまた禊なのである。


すっかりずぶ濡れ





お昼休みにおかげ横丁へ
 お昼になり、昼食のお昼休みに入る。御用材を一旦岸に引き上げ、長い長い縄を巻き上げる。

 1時間ほどの休憩に入る。昼食はちゃんとお弁当が用意されており、コレが想像をはるかに超えた豪華な中華弁当であった。

 昼食はお弁当が付くとは聞いていたが、自分の想像ではおにぎり2個くらいとか、稲荷ずしか助六ずしのパック程度に思っていたのだ。

 満腹した後、時間までおかげ横丁をぶらついた。



 

おなかペコペコです
 

超豪華なお弁当



 

これがみんなが引いている本体の御用材





午後の行程
 さあ、お昼も終わり、午後の行軍の始まり。掛け声と共にみんな川に入り、また法螺貝が鳴り響き、木遣りが唄われ、ゆっくりゆっくり進み始める。

 午後の2時頃にはいよいよ佳境に入ってくる。五十鈴川の中でも、特に深く、川底に滑りやすい岩が増え、流れが早い場所になる。この時点で、年寄りや子供、足腰に自信が無い人などは、隊列から離れ、岸に上がるよう指示が出る。とは言っても、それほど危険な場所ではなかったが。

 よーこは少々疲れが出て、午後は隊列から離脱して、岸からの撮影隊となった。



  そして3時近く、ついに宇治橋が見えてきた。川の中の行軍は、この宇治橋までで、宇治橋の袂の急坂を神宮の参道に向かって引き揚げる。

 ここは、急坂を力任せに引き上げるので、最も危険な場所とされる。まずは橋の下で大きく方向転換。今までの進路に直角の形に隊列を整える。

 最後の法螺貝吹き鳴らし、木遣りの唄い上げが、厳かに行われ、引き上げ開始!エンヤー!エンヤー!


クライマックスが近付いてきたぞ





ついに宇治橋まで来た 


宇治橋の上から 
 

引き上げろー!


引け!引け! 
 

見事に坂を上げた


みんな安堵の表情 





御用材の奉納
 内宮の引き渡し場所にて、御用材を納める。神職が祝詞を上げ、受け取りの儀式が行われ、無事お木曳の行事は終わった。

 そして、参加者全員が、内宮の本殿へ向かい、御垣内に入り、無事奉納が出来たご報告と御礼の参拝を済ませ、すべての儀式が終わった。

 またバスで二見浦まで戻り、土田さんのご実家に荷物を取りに行く。すると、旦那さんが、名古屋まで一緒に車で行きませんか、と誘ってくれた。

 うわーい!ありがたい!お願いします!ってんで、車で名古屋のJR千種駅まで送ってもらい、そこから中央線で八ヶ岳の帰路に着いた。





今回の旅の戦利品

上左、土田さん作のステンドグラスのグラス    右、土田さんのお母様の作られた陶器の花入れ
中左、土田さんご実家の土産物屋さんのデンデン太鼓    右、同じく肩たたき孫の手
下左、ホテル近くの土産物屋で買った「蘇民将来」の注連縄   右、同じく塩羊羹





土田さんのお母様作の花入れ

我が家の紫陽花をさして玄関に飾った
 途中JR塩尻駅で乗り継ぎの電車を1時間も待たされ、家に戻ったのは深夜12時前、日が変わろうとしている頃だった。疲れ切っていたが、急いでシャワーだけは浴びて、早々に就寝する。

 翌日、さっそく今回の旅でゲットした戦利品を並べて、喜びを噛みしめる。特に土田さんのお母様が作られた陶器の花入れと、土田さん本人がつくられたステントグラスのグラスは、大のお気に入りとなった。

 因みに、土田さんの奥さまは、ステンドグラスの作家で、ご自身で教室も開いておられる、アーティストなのだ。



 

「蘇民将来」の注連縄と土田さん作のグラス

土田さんのグラスはペン立として使わせて戴く


玄関に「蘇民将来」の注連縄 







素晴らしい体験をさせて戴きました 





 今回は遠路遥々の旅になったが、実に楽しく充実していた。土田さんご夫婦のおかげで、二度と無いであろう貴重な体験をさせて戴いた。

 自分的には、今回の「お木曳」参加は、土田さんご夫婦のお誘いという形で、伊勢神宮の神が自分達をお呼びになったのだと思っている。本当に有り難い気持ちでいっぱいだ。

 土田さん、ありがとうございました!





神さまに呼ばれただよー





令和八年 八月吉日 もうじきお盆




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