◆心華獨笑◆ 
第四百四一稿
 「ポップ・アートとレオナルド・フヂタ」

 ■山梨県立美術館■




久しぶりの山梨県立美術館



 先月、お盆前に、山梨県立美術館で開催されていた『ポップ・アート』の展覧会に行ってきた。ポップ・アートとは、アンディ・ウォーホルなどを代表とする、60年代のアメリカン・アート。その先駆者達の展覧会が開かれたのだ。

 60年代と言えば、ちょうど自分が生まれた年代である。しかし、当然だが幼すぎるが故、リアルタイムで触れる事は出来なかったわけだ。そして、時を経て美術に目覚め、高校時代から大学時代にかけて、ポップ・アートや現代アートに夢中になった。自分の創作において、ポップ・アートの作家の中にも、かなり影響を受けた作家が多くいた。



 

ポップ・アートの大規模な展覧会は嬉しい





展覧会のチラシ
 この展覧会は、スペインの大規模なコレクションを誇る『ルペレス・コレクション』(ホセルイス・ルペレス氏所蔵)の協力により実現したという。日本の数カ所を巡回する展覧会だが、山梨県にも来たのは嬉しい限りだ。ただ、何故、今、ポップ・アートの大規模な企画展が行われたのか、その理由はよく知らない。

 ともかく、自分が青春時代に熱中した作家達の作品を、実際に直に見れるという事は、非常に嬉しい。日程を調整し、真夏の酷暑の中、日本でもトップクラスに気温が高い、甲府市まで出かけた。



 平日ということもあったのか、入館者は疎らで空いていた。展覧会が空いているというのは、実に有難い事である。平日だから空いていたのか、人気が無い展覧会だから空いていたのか、そもそもポップ・アートというものが今の時代では知られていないから空いていたのか。その理由は定かでない。

 しかし、見る方としては、最高の状態。自由に好きな作品の前で、気が済むまでじっと動かずに見ていられる。人気の展覧会だと、それこそパンダを見学するように、行列に流され、見たい作品をじっくり見る事も出来ず、あれよあれよと出口から押し出されてしまうのだから。


山梨県立美術館の入口ホール





さて、いよいよ、入場します
 展覧会に来ていた作品は、殆どがリトグラフやシルクスクリーンの量産版画作品で、手描きの一点ものものは少なかった。これは展覧会に行く前から予想していたことで、そもそも、ポップ・アートの作品というものは、量産されることが、一つの行為の芸術になっているためだ。

 今回の展覧会の中で、学生当時、特に好きで影響を受けた作家が、ジャスパー・ジョーンズ、ジェームズ・ローゼンクイスト、そしてジム・ダインの3人。当時日本では、アンディ・ウォーホルが人気だったようだが、ウォーホルは自分にとってキライというわけでもないが、それほどでもなかった。

 一番好きで、自分の絵画制作において、多大な影響を受けたのは先にあげた3人の中で、特にジム・ダインだ。





ジャスパー・ジョーンズのバナーと作品 


手前はジャスパー・ジョーンズの代表作 
 

アンディ・ウォーホルのバナーと作品


マネキンはアンディ・ウォーホルの作品

「ペーパー・スーツ」と「ザ・スーパー・ドレス」
 


こちらもアンディ・ウォーホルの作品 


ロイ・リキテンスタインの作品 




 ■ポップ・アート展 図録■



 

購入した図録



 展覧会に行けば、必ずその展覧会の図録を買うのが常である。(よほどつまらない展覧会ではない限り) モチロン、今回も図録を購入した。

 今回の展覧会に来ていた作品を、全部紹介することも出来ないので、購入した図録の写真をテキトーに撮って、ここに掲載する。何となく、ポップ・アートというものの感じが、わかるかと思う。

 アート全般にまったく興味が無い人でも、これらの作品のうち、どれかは、「あ、見た事あるなあ〜」と思うのではないか。ポップ・アートは商業アートでもあり、美術館の堅苦しい空間でおすましして見るよりも、巷に何気に存在するのが本来の姿なのだから。


ロイ・リキテンスタイン

『パーン!』



 

ジャスパー・ジョーンズ

『オベイ』  (これが本人)
 

ジャスパー・ジョーンズ

『マース・カニンガム舞踏団(標的)』
 

アンディ・ウォーホル

『マリリン』


アンディ・ウォーホル

『キャンベル・スープ』と『貯金箱』
 
 

ロバート・ラウシェンバーグ

『自由の女神』 (左ページ)


ジェームズ・ローゼンクイスト

『ニューヨーク・セズ・イット』と『西洋人の偉大なアイデア』
 
 

トム・ウェッセルマン

『1セント・ライフ』挿絵 (両方とも)


トム・ウェッセルマン

『ギャレリア・プラーラ』と『モニカ』
 
 

ロバート・インディアナ

『HOPE HOPE』 (右ページ)


大好きなジム・ダインだが・・・

なんと!図録に作品が収録されていない!
 





記念のお土産に買ったクリアファイル

「LOVE LOVE」 ロバート・インディアナ
 展覧会を見終り、図録の他に、ロバート・インディアナの作品
「LOVE LOVE」がプリントされた、クリア・ファイルも購入した。

 家に帰ってから、図録を見てちょっとショックを受けた。展覧会に展示された作品が収録されているものが図録なわけだが、
なんと! 自分が一番好きなジム・ダインの作品だけ、収録されていないではないか!

 「都合により、ジム・ダインの作品図版は、本書に収録されません」
という一文が、本人のモノクロ写真のページに小さく印刷されているのみ。

 なんか、大人の事情があるのだろうなあ〜。ガッカリ。




 ■甲府ミュージアムハウス■



 

今まで気付かなかった「甲府ミュージアムハウス」



 美術館を出て、駐車場まで歩く。いつもは敷地内の一番近い駐車場に車を停めるのだが、この日はそこが満車で、敷地外のちょっと離れた駐車場に停めた。展覧会はガラガラだったのに、なんで駐車場は満車だったのだろう? 何か他にイベントでもやってたのかな。

 まあ、兎に角、アツアツの炎天下を歩いていると、道路の向かいに何か目立つものを発見。黄色い大きな風船人形がビヨーンビヨーンと伸び縮みして、呼び込みしている。まあ、よく見かけるディスプレイだが、妙にそれが気になった。あそこは何だ!?


我々を呼びとめた風船人形





レオナルド・フヂタのイラストが可愛い
 道を渡って近寄ってみると、「甲府ミュージアムハウス」とある。更に立て看板を眺めると、『藤田嗣治と30匹の猫』と書かれている。

 藤田嗣治とは、言うまでも無く、レオナルド・フヂタの事だ。レオナルド・フヂタは好きな作家の一人。こんな所にフヂタの美術館があったなんて、今までぜんぜん知らなかった。先にも書いた通り、今まで美術館に来る時は、美術館の敷地内の駐車場を利用する為、美術館周辺を歩くことがなかったからだ。

 立て看板の上部には、可愛いネコとフヂタのイラストが描かれている。
よーこもレオナルド・フヂタは大好きだ。
「入ろうか?」と聞くと「入る!入る!」と二つ返事。

 で、さっそく入ってみた。入館料は大人600円だが、県立美術館の半券を見せると100円引きになる。もちろん我々は、今見てきたポップ・アート展の半券を見せ、100円引きの500円で入館。




表通りからだと、あまり目立たない建物 


ミュージアム入口 
 

甲府ミュージアムハウス   チラシ
 

チラシの内側



 ■レオナルド藤田■



 入館するとフロントには誰も居ない。「すいませーん」と声を掛けると、併設されているカフェからオバちゃんが慌てて走ってきた。「イラッシャイマセ〜」。どうやらカフェとフロントを一人で切り盛りしているようだ。入場料を払うと、その場で館内のあらましをザッと説明してくれて、「では、ごゆっくりどうぞ〜」と言い残し、またカフェへ急ぎ足で戻って行った。

 展示室は幾つもあり、順路通りに進む。まず最初は、この美術館の前奏曲的な部屋。メインである、レオナルド・フヂタの作品と共に、フジコ子・ヘミングの作品が展示されていた。


中々オシャレなギャラリーだ





如何にもレオナルド・フヂタらしい作品
 レオナルド・フヂタの数点のカラー作品が並ぶ、向かいの壁には、フジ子・ヘミングのカラー作品が並んでいた。

 レオナルド・フヂタについては、その代表作や、特徴的な画風も良く知っている。しかし、フジ子・ヘミングに対しては、ピアニストであることはもちろん知っていたのだが、こんな魅力的な絵を描く、画才も溢れた人だったのだと、この時初めて知った。

 ギャラリーは、レオナルド・フヂタの展示室の次に、フジ子・ヘミングの展示室が続いているようだ。

 「レオナルド・フヂタ」は、現在、「レオナール・フジタ」と表記され、呼ばれることが一般的になっている。しかし、自分はあえて
「レオナルド・フヂタ」と呼ぶ。





レオナルド・フヂタの展示室 



 自分が美術大学の学生だった時代、「レオナルド・フヂタ」一択であり、「レオナール」などという呼び方はなかった。

 当時、大学に非常勤講師として、鳴海何某先生という老画家が、絵の指導に来ていたのだが、この人が昔、藤田嗣治の直弟子だったという。その鳴海先生はよく、「私の師であるレオナルド・フヂタはねえ、こう言っていたもんだよ・・・」などと昔話をしてくれるのだが、その時も発音は「レオナルド」であって、決して「レオナール」ではない。

 直接教えを受けた直弟子が「レオナルド」と言っているのだから、こちらの発音が正しいのである。

 更に調べると、確かに「レオナール」というのは藤田嗣治の洗礼名ではあるのだが、藤田本人も、「レオナール」と呼ばれることを好まず、「レオナルド」と呼ばせていたという。それは藤田が最も尊敬する画家が、レオナルド・ダ・ヴィンチであったからだとも言われている。

 その証拠として、藤田の作品で、カタカナのサインのものは、
「レオナール」ではなく「レオナルド」と書かれている。
更に、細かい話しだが、「フジタ」ではなく「フヂタ」と書かれている。


レオナルド・フヂタの作品の前にて



 

レオナルド・フヂタ  「自画像」





生き生きとした猫のスケッチ
 ギャラリーは、写真撮影はご自由にどうぞ、ということだったので、沢山撮らせてもらった。メインのコレクションは、ネコの素描30点。これは、1930年に出版された『猫の本』と『猫十態』のオリジナル原版の中の30点。

 その他に、水彩画や銅版画、デッサン帳、サインが無数に書かれた紙切れなどが展示されている。

 確かに、ネコの絵は素晴らしかった。生き生きとしていて今にも動き出しそう。そのまま抱きかかえれそうな気さえしてくる。モノクロの素描だが、エンピツやペン、フヂタお得意の面相筆など、様々な画材を使って、ネコの、あの柔らかな感じが、見事に表現されている。

 以下に、写真を撮らせてもらった、展示作品の一部を掲載する。



   
   
   
   
   




 ■フジ子・ヘミング■





フジ子・ヘミングの展示室 



 レオナルド・フヂタの展示室が終わると、次はフジ子・ヘミングの展示室。

 先に書いたが、フジ子・ヘミングという人については、ピアニストであるということしか知らなかった。テレビなどで知っていたのは、個性的な出で立ちのおばあちゃんで、大の猫好きで、黒柳哲子と仲良し。ピアノ演奏では「ラ・カンパネラ」が代表的に取り上げられるということまで。

 まさか、こんな優れた感性の、個性豊かで、上手い絵を描く人とは思ってもいなかった。やはり、天才なのだな。

 以下、展示作品の幾つかを掲載する。


可愛くお洒落で、実に素晴らしい



   
   
   
   





メチャクチャかっこいいスケッチ
 ネコの絵は、フジタとはまた、まったく違ったとらえ方、表現の仕方だが、実に魅力的で素晴らしい。デフォルメされたネコのフォルムも、余白を残す全体の構図も、バルール(色バランス)も、ホントに見事だ。天は二物を与えるものなのだなあ。

 ネコの絵を見終って、特別な意味は無いが、自分はなぜか、日本画家の片岡玉子の絵を思い出した。

 ネコの絵に続く人物像も、やはりオシャレ。実にバランス良く、さり気ない感じで描かれている。自画像もあれば、モデルを描いたものもある。大胆であり、また繊細でもある作品は、これも深い意味は無いが、竹久夢二を思い出した。

 兎に角、フジ子・ヘミングというアーティストは、ピアニストであるだけではなく、一流の画家でもあったのだ。




 ■佐藤正明■





まさに、ポップ・アートである 



 レオナルド・フヂタ、フジ子・ヘミングと見て、次の部屋は、佐藤正明という作家の展示室。

 申し訳ないのだが、この作家の事は、今までまったく知らなかった。山梨県立美術館の敷地内の公園に、金属製のキラキラとメタリックに輝く巨大なリンゴの野外彫刻があるのだが、この『ザ・ビッグ・アップル』という作品の作者だった。

 山梨県甲府市の出身の作家で、美術の教科書にも掲載されているという。代表作は、ギャラリーにも幾つか展示されている「地下鉄シリーズ」。


美術館の続きのようだ





佐藤正明の展示室 
 

代表作「地下鉄シリーズ」




 ■人形の家■





大好きな複葉機の模型
 絵画のギャラリーが終わり、次の部屋に行くと、そこは、なんだかガチャガチャと賑やかしい。

 基本は、人形とテディベアのコレクションだ。昔懐かしいオモチャなども展示してあるが、やはり、人形がギッシリ並べられていると、ちょっとコワイ。夜になると、絶対に動くヤツが居そうだ。

 トイストーリーみたいな、カワイイ人形たちのディズニー的世界ならまだしも、どう見てもこれは、アナベルの世界観であり、オカルトである。

 と言っても、案外キライじゃなく、こういうのも有だと思っている。ただし、ここのスタッフになって、一人で夜の最後の戸締りの役だけは、絶対におことわりする。



 

「ソッピースキャメル」かと思われる
 

人形が詰まったケース



 

この人形たち、夜中に必ず動き出すよね〜

あ! 今、まばたきしなかった!?



 

なんだか、ちょっと、コワイねえ〜


テディベアのコレクションもある 



 

一瞬、雛飾りに見えるけど、そうじゃない・・・



 ■龍神さま■



 

我々夫婦は辰年なので、守り神のようで嬉しい





ブルー・モスクとドラゴン
 最後の最後は、特別展示室という、貸ギャラリー・スペース。期間限定で、様々な展覧会が開かれている。

 この日は、「龍」をモチーフにした作家の展覧会が開かれていた。この作家は、本職は精神科のお医者さんだという。作品は家庭に有る普通のティッシュ・ペーパーを練って粘土状にして、造形をした後に、着彩を施すという、所謂、ティッシュ・アートの作家。

 精神科の医師という職業柄、アート作品によって、人の心を癒せないか、ということから始めた制作だという。

 非常にクオリティーの高い作品で、まさかこれが、家庭にあるティッシュで作られているとは思えない。





よーこを護ってくれる龍 


神々しい作品だ 




 ■お土産買っちゃおう■



 ミュージアムハウスを出て、駐車場に向かう途中に、大野屋という和菓子屋さんがある。実は、この店は前々から気になっていた店。美術館に来る時、必ずその前を通るので、一度入ってみたいと思っていたのだが、大通り沿いにあるため、いつも通り過ぎてから、あ! となって、今まで入ることがなかった。

 この和菓子屋は以前からすっと気になっていたというのに、その並びにあった「甲府ミュージアムハウス」は、2020年にオープンしているのにもかかわらず、今までぜんぜん目に入っていなかったというのは、我ながら不思議な事だ。

 この日、ついにその店に入ることが出来た。甲州名物に、酒饅頭があり、もしかしたら、その酒饅頭があるかもと思っていた。しかし、残念ながらこの店では酒饅頭は作っておらず、かわりにこの店の名物であるという「甲斐鼓」という、栗入りのどらやきを購入した。


 家に帰って、とっておきの静岡茶を淹れ、おいしく戴いた。


美術館近くに有る「大野屋」





中々風情のある和菓子屋だ 
 

「甲斐鼓」という、栗入りのどらやき





 今回は、山梨県立美術館で「ポップ・アート」の展覧会を見るだけのつもりだったのだが、偶然にもレオナルド・フヂタ、フジ子・ヘミング、その他多くの作家達の作品をたっぷり見れて、図らずもどっぷり一日、芸術鑑賞の日となった。

 メチャクチャ刺激的で楽しい一日だったが、流石に疲れてヘトヘトになった。展覧会は一つ見るだけでかなりパワーを使うのだが、この日は3つ以上の展覧会を見た形になったのだ。

 9月に入り、下界は知らないが、八ヶ岳は多少は秋めいて来た。これからが芸術の秋本番だが、一足先に、お腹一杯、芸術を堪能できた日だった。





呪いの館には、行っちゃいけねえ〜!

と、歌い出しそうになる
 





令和七年 九月 三連休の敬老の日




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