ミミちゃんが見上げる空には四角い枠がある。端から端まで空を見上げていると、必ず四角の枠に行き当たります。
ミミちゃんが生まれたのは農家の農機具小屋の片隅でした。姉妹の猫達と一緒に生まれたけれども、その姉妹の猫達はみんな川に流されてしまって誰もいなくなってしまいました。ミミちゃんだけは、近所のおばあちゃんが、かわいそうに以前家にいた猫に似ているからと助けてくれました。
ミミちゃんが引き取られた家はおばあちゃんが1人で暮らしているだけで、おばあちゃんも話し相手ができたことで喜んでくれました。とても大切にされたので、外へ出て行って戻ってこれなくなっては大変と家の中で飼われる事になりました。だから、ミミちゃんは枠のある四角い空を見て育ちました。
あるとき、窓の外へ真っ白な猫がやってきてミミちゃんに中へ入れて頼みました。近くの野良猫が集まる家から崩壊して流れ流れてやってきた猫でした。おばあちゃんは、この白猫にサンちゃんという名前をつけて家に入れてあげました。サンちゃんはとても甘えん坊の妹でした。
ミミちゃんが4歳になったばかりのお正月に、おばあちゃんは以前から左手がうまく動かなかったので、検査のために大きい病院へ入院することになりました。あばあちゃんは、すぐに帰ってくるからので入院の間だけミミちゃんとサンちゃんを預かったくださいと近所の動物病院にお願いしました。1人暮らしで猫達の面倒を頼むことができる人がいなかったのです。
おばあちゃんは、すぐに帰えってくるつもりでいましたが、治療が必要と診断されてなかなか帰って来ません。それどころか、さらに別の病院にまで転院することになってしまいました。ミミちゃんもサンちゃんもずっと動物病院でおばあちゃんの帰りを待ち続ける毎日です。
やがて、半年ほどしてあばあちゃんが動物病院へやってきましたが、それは二人を迎えにきたわけではありませんでした。病気で自分自身も面倒もみれない者が猫の世話でもないだろうとお医者さんに言われて二人を手放すためにやってきたのです。
介護の人をお願いして暮らしていくことになるので、二人を手放したい、引き取って面倒をみてくれる人はいないでしょうかというお願いに来たのです。「ミミや〜、先生の言うことを聞いておとなしくしているんだよ。」とミミちゃんの耳に口を寄せて何回も何回も繰り返すのでした。
あばあちゃんは、それから1ヶ月ほどは介護の世話になりながら自宅で1人ぼっちで暮らしていましたが、やはり無理があったらしく、また入院してしまいました。そして、それからは病院から病院へと転院が繰り返されて、いつしか連絡もとれなくなってしまいました。
動物病院の先生は、そんなミミちゃんを特別養護老人ホームのお年寄りの慰問活動に連れて行くことにしました。お年寄りの中には犬よりも猫が好きな人たちがいましたし、おとなしいミミちゃんはお転婆なサンちゃんと違ってお年寄り達の相手にむいていたからです。大きな犬も怖がらずにお年寄りの膝の上でジッとしていることのできるミミちゃんには、うってつけの仕事だったからです。こうして、ミミちゃんは妹のサンちゃんを養いながらの仕事をするようになりました。
そうして、ミミちゃんは仕事をしながら歳をとっていきました。いつしか、周囲の賑わいが気になるようになってきました。静かに過ごすことを好むようになってきました。動物病院の先生のところでも新しい猫達が増えてきて、ミミちゃんの居場所もだんだんと狭くなってきました。ミミちゃん1人で静かに過ごしたいというときに、よく窓辺にたたずむようになりました。
そんなミミちゃんを見て、先生も慰問活動から引退させてくれました。今では、大勢の猫達の中にいても1人でそっと窓の外を眺めて暮らすようになりました。ミミちゃんは今13歳です。おばあちゃんと別れてから9年が過ぎています。
ミミちゃんは、今日も、窓辺で四角い空を眺めては、おばあちゃんが迎えにきてくれるのを待っています。
おばあちゃんのお迎えは、今日もありません。ミミちゃんは、四角い空を見つめ続けます。
追記:おばあちゃんは、4年前にある老人ホームで亡くなりました。先生と奥さんは、ミミちゃんたち二人の写真を棺に入れてくれるようにと届けました。
ミミちゃんは、あの四角い空の向こう側に おばあちゃんがいることを知っているのでしょうか?
画像は、ユータン作「夕焼けを見る猫」
|