◆心華獨笑◆ 
第四百三四稿
 「奈良井宿」




江戸時代の宿場がそのまま保存されている



 6月に入り、いよいよ梅雨入りが近付いたと感じた。梅雨に入れば当然雨続きとなり、お出かけも儘ならなくなる。そうなる前に、前々から幾つかピックアップしてある「行きたい場所」の何処かに行っておこうという話になった。

 さて、何処にしよう。ここで迷っているのは、自宅の近くのすぐに行ける場所ではなく、ちょっと長距離ドライヴになるスポット。よって、それらに行くとなると、それなりの計画をたて、当然早立ちになる場所だ。

 長野、松本方面や、塩尻、恵那方面、秩父方面など、10カ所ほどピックアップした「行きたい場所」があるのだ。





起点となる「鎮神社」 





宿場の京都側の端にある神社
 あれこれ迷って相談して、決まったのは長野県塩尻市にある、『奈良井宿』。
この奈良井宿は、旧中山道に残る江戸時代の宿場町で、町並みの全長は約1kmにわたり、保存されている宿場としては日本最長だという。

 昭和53年に国から「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、平成28年には「日本遺産」に認定されている。

 そんな奈良井宿は当然、超有名な観光の名所であり、近年は、インバウンドの外国人観光客が溢れていると聞く。だからオンシーズンや土日祝日などは、国内外の人でごった返すのだろう。

 6月に入った今、いつ雨が降り出してもおかしくない梅雨の入口の平日なら、それほどの混雑はないのではないか。そう考え、奈良井宿行きを決定した。



 そうと決まれば、行程を計画する。出発は朝8時と決めた。目的地には高速道路を使って2時間ほどの道のりだ。10時頃に到着し、古い街並みを散策して、その中の気に入った店でランチにしようという計画。

 当日、お天気は多少雲は多いが、概ね晴れ。暑くも無く寒くも無く絶好の観光日和だ。予定通り出発。中央道小淵沢インターチェンジから高速道路に乗る。

 気持ちの良い高速道路を調子よく御機嫌に運転していたのだが、ちらほらと何かの警告の電光掲示板が目に付く。なんだなんだ〜?

 『岡谷ジャンクション付近で重大事故発生・通行止め』

 えっ!! 通行止め? まさかー!


拝殿




拝殿の中
 『諏訪ー岡谷間、全面通行止め。諏訪インターチェンジで下りよ!』
という電光掲示板がどんどん増えてくる。  ・・・まじかー! 
まじだよなあ〜。ジョークでこんなお知らせするワケないもんな〜・・・。

 そして間もなく大渋滞となった。全ての車両が諏訪インターチェンジで強制的に下されるワケで、その料金所は大混乱に陥り、出口は完全に詰まり、その先の国道も大渋滞しているのだ。

 どひゃ! 計画が完全に狂っちゃったぞー。でも身動きはとれず、どうしようもなく、渋滞をじっとガマンの子で耐え、漸く諏訪インターを下りた。

 これで立てた計画の時間割は、まったく意味をなさなくなった。しかし、行くと決めたんだから、ここで中止して引き返すつもりは毛頭ない。

 ここからはグーグル先生を頼りに、ひたすら下道で奈良井宿を目指す。


 そんなハプニングがあり、結局11時半頃に奈良井宿到着。最初の計画では10時に到着予定だったわけで、1時間半のロスタイムとなった。でも無事到着出来た。

 到着して早々ランチタイムというわけだが、予想通り、平日なのでそんなに人出は多くなく、慌てて並んで店に入る必要もなさそう。

 それじゃあ、焦らず慌てず、じっくりマイペースで行きましょう、ってんで、まずは町並みを見学するのは後回しにして、起点となる宿場の始まりの街道の端まで行くことにした。

 その始まりは「鎮神社」という立派な神社だった。この宿場の京都側の端の、宿場の入口に有る。


拝殿の中の祭壇




広く清浄な境内
 駐車場から、わざと、なるべく町並みを見ないようにして、急ぎ足で「鎮神社」に到着。社名は「しずめじんじゃ」と読む。

 御祭神は「經津主命」(フツヌシノミコト)。元和四年(1618年)春、「すくみ」という病気が奈良井宿で流行り、それを鎮めるために、千葉県香取神宮より經津主大神を勧請してこれを祀り、病を鎮めたのが始まりという。

 立派な気持ちの良い神社だ。本殿裏手に広がる森の高台には、五つの摂社が祀られていて、とても雰囲気が良かったが、おそらく、これらの摂社が、經津主命を勧請する前から、ここで祀られていた原点の神々だろう。

 神社に参拝をして、さあ、いよいよ宿場の探索だ。


 

本殿裏手に祀られる摂社群


 

中々良い雰囲気
 

おそらく、この神社の原点の神々


 

いよいよ宿場町へ




鎮神社から坂を下ると宿場が始まる
 神社から坂を下ると、すぐに宿場町が始まる。神社まで来る時は、なるべく町並みを見ないようにしたので、ここからじっくり見て歩く。

 思っていたより観光客は少ない。梅雨の入口のオフシーズンの平日という条件だからだろうか。インバウンドの外国人には、オンシーズンとか日本国内の連休とか土日とかは関係ないはずなので、外国人だらけということも想定していたのだが、それもなかった。

 でも、まったく人が居ない寂しい感じではなく、ちらほらと、ちょうど良い感じの人の出だ。




めちゃくちゃイイ雰囲気 


 素晴らしい雰囲気の宿場町。延々と続く古い町並みは実に絵になる。特に驚いた事は、この江戸時代からの古い建物に、普通に、ただ住んで居るだけという家がけっこう多い事だった。

 こういう観光地には、あるあるの事だが、せっかくの素晴らしい雰囲気が残る古い建物を、ノン・センスの改装をして、軒並みお店にして、町並みの殆どが土産物屋と飲食店と宿屋で埋まっている場合が多い。

 だがここは違う。日常的なのだ。本当に江戸時代にタイムスリップしたような、不思議な感覚になる。まあ、これも、たまたま観光客が少なかったからの事かも知れないが。


観光客は疎ら


 

造り酒屋には杉玉


 

タイムスリップ感がすごい


宿屋もある 




普通の民家も多い
 時代劇の中に紛れ込んだような気分で散策を続ける。もしかしたら、実際に映画のロケなども行われているかもしれない。詳しくはないが、有り得る話だ。

 街道に入り、しばらく歩くと、土産物屋がかたまって並んでいるあたりに来た。こういう土産物屋にはワクワクする。

 今回は、何か中山道らしい民芸品に出会えたら購入したいと考えていた。「何が欲しい」というわけではないが、昔から、その地方独特の民芸品には目が無いのだ。



 

黒澤明の映画『用心棒』を思い浮かべる

向こうから三船敏郎が懐手で歩いて来そうだ





なんだかオシャレだねえ〜 



 何軒かかたまっている土産物屋には、面白そうなものが溢れていた。一軒一軒、ひやかしながら覗いてみる。

 この辺りは、どうやら塗り物、すなわち漆器が名物のようだ。どの店に入っても必ず漆器が並んでいる。漆器のみの専門店もあるが、普通の土産物屋でも、一画には必ず漆器を並べている。

 木曽檜が有名なので、その木材わ使っての漆器作りが盛んに行われたのだろう。

 因みに、木材から轆轤を使ってお椀などの形を作る職人を「木地師」と言い、それに漆を塗って仕上げる職人を「塗師」(ぬし)と言う。つまり大昔から一つの漆器を作るのも、分業で作業が行われていた。


可愛らしい着物



 

とても雰囲気のある店構え
 

棚には漆器が並ぶ



 

楽しそうな土産物屋エリア





三度笠なんて、わくわくするのぅ〜 
 

この店「会津屋」で箒とおせんべいを買う





さあ、お昼ごはんにしましょう

小脇に今買った箒を抱えている
 土産物屋は見ているだけで本当に楽しいのだが、実は自分は漆器にはあまり興味がない。だから漆器コーナーより、他の木工品や竹細工に目が行く。

 今回は、もしあれば、お面が欲しかった。中山道の街道筋で売られている、昔ながらの和紙で出来たお面があれば、一面買おうと思っていた。しかし、残念ながらお面は何処にも売ってなかった。

 そのかわりというわけではないが、箒を一本買った。小振りで使い勝手の良さそうな手作り箒。そして、よーこは、匂いにつられてその店の手焼きのおせんべいも買っていた。おなかがすいているのだろう。





ここに決めた!! 「越後屋」



 さあ、しっかりおなかがすいたぞ。土産物屋エリアを過ぎると、ポツポツと飲食店が現れる。

 出発点の神社に向かう時、なるべく町並みを見ないようにしたのだが、そんな中でも印象に残った店構えがあった。その時、ここでお昼にしたいなあと思った。

 でもじっくり見て歩いて、もっと印象的な店が有れば、そこへ入ればイイわけだが、まずは第一候補と思った店があった。

 ぶらぶら見て歩いた揚句、やっぱり第一候補の店が一番店構えが好みだった。さっそく、その「越後屋」というお店に入る。


お店の中はこんな感じ



 

若干の土産物を売っている


奥に座敷が有る 
 

入口近くのテーブル席に陣取る


 奥の座敷は混んでいたのでネ





越後屋定食
 店のおじさんといろいろお話をする。「奥の座敷でもイイよ」と言ってくれたが、座敷はけっこう混んでいて、落ち着かなそうに見えたので、玄関先に有るテーブル席に座った。

 オーダーしたのはこの店のお薦めの「越後屋定食」。二段のお蕎麦と二種類の五平餅、二品の小鉢という定食。

 基本的に旅先の昼飯には期待してない。いいかげんでテキトーなものが出て来てあたりまえだと思っている。いや、むしろその、いいかげんでテキトーなものを期待している節も有るくらいだ。

 でもこの「越後屋定食」はオイシかった。蕎麦も五平餅も味が良く、ボリュームもしっかり有って大満足。

 帰り際に、奈良井宿の風景を木版画にした手拭いを購入した。





いっただっきま〜す! 


けっこうボリューミーだね 





ああ〜、くったくった、うまかった〜 





購入した手拭い 


ちょっと、いっぷく 



 

上問屋資料館 (かみといやしりょうかん)





入口の玄関
 さてお腹も膨れ、後半の散策。お昼を食べた「越後屋」は、街道のちょうど真ん中あたりに位置する。つまり、出発地点の神社から半分見学を終えたわけだ。

 残りの半分をゆっくり見ながらJR奈良井駅へ向かう。この宿場は全長が1kmほど有る一本道なわけだが、その街道の京都側の端に鎮神社があり、諏訪湖側の端にJR奈良井駅があるのだ。JRで来た観光客は、我々と逆のコースで神社に向かうわけ。

 我々が車を停めた駐車場は奈良井駅の近く。ここから駅へ向かう間の町並みを見学するのだが、通りすがりに気になった資料館が有り、ちょっと戻ってそこを見学することに。



 その資料館とは「上問屋資料館」。実際どんな資料館なのか、まったく知識は無かったが、その建物の外観の立派さに興味を持った。

 この建物は「手塚家住宅」といい、国指定重要文化財となっている。宿場の管理運営をしたのを「問屋」(といや)といい、この奈良井宿上問屋は慶長年間から明治維新まで、およそ270年間、問屋を務め、庄屋も兼務した手塚家の建物だという。

 この資料館の自慢が、明治天皇が旅の途中でこの地を訪れた時、昼食を摂ったと言う部屋。この部屋だけは、立ち入り禁止になっていた。


ものすごく広く立派な屋敷だ



 

明治天皇が御昼食を摂られたお座敷

特別豪華絢爛ということもなく、普通のお座敷だった



 

広い座敷が何間も続く


中庭が美しい 



 

ここで昼寝したいなあ〜





二階もあるでよう 


急な階段 
 

二階の座敷


ここは何か特別な空間らしい 
 

もちろん囲炉裏もある
 

ここが宿屋だったら素敵だねえ



 

店先に飾られた「カゴ」





人気の団子屋
 資料館をじっくり見学して、駅へ向かう。途中には観光客に人気のあるらしい、人だかりのする団子屋があったが、こっちはお腹一杯。

 街道筋の何か所には水場があり、そこには必ず水神様が祀られていた。更に庚申塔もあり、庚申信仰が盛んだったことも窺がえる。

 街道途中の路地を入ると、奥まった山手には素朴な神明鳥居の立つ神社が有った。「神明社」という神社は「天照大神」(アマテラスオオミカミ)を祀る神社だ。

 その他面白いのは、「笄屋」(こうがいや)や、「灯り屋」(あかりや)などが目に留まる。





何カ所か水場がある 


ここでも庚申信仰は盛んだったようだ 


宿場の途中に有る神社 


神明社は天照大神を祀る 



 

「笄屋」(こうがいや)

「こうがい」とはクシのこと   赤いクシの看板がイイね



 

絡む蔓草が夏っぽい
 

ここはランプなどの「灯り屋」
 

昔懐かしい赤ポスト
 

そろそろ終盤だ





ソフトクリームを買って嬉しそう 





お腹一杯じゃなかったっけ
 よーこはずっとソフトクリームが食べたいと言っており、ランチ後でお腹一杯なはずなのだが、街道の出口辺りの店で購入した。

 ソフトクリームを舐めながら、宿場を出れば、JR奈良井駅が見えてきた。観光客がチラホラ居るが、特に混み合っている事はない。

 この駅が奈良井宿観光の起点であり、また終点である。宿場には宿場というだけあって、古い家屋のままで、実際に泊まれる営業中の宿屋も多く有った。

 そんな宿屋に一度、泊まってみたいものだ。





JR奈良井駅 


まったく混んでいない 





「二百地蔵」 



 JR奈良井駅に着いた。この駅の裏手に有る駐車場に車を停めている。駐車場の方に歩いていると、分かれ道にある案内看板が目に留まった。看板には「二百地蔵」とあり、矢印が描かれている。

 時間もまだたっぷりあるし、折角だから行ってみようということで、分かれ道を駐車場の逆の、上り坂の方へ進む。

 しばらく進むと、杉並木となり、その先に「二百地蔵」の古びた看板が立っていた。看板の先には、夥しい数の石仏が並んでいた。


杉並木の山道





ずいぶん寂れて見える 
 

二百地蔵本堂
 

本堂前に立ち並ぶ石仏
 

観光客は誰一人居ない



 

本堂内の地蔵尊





心霊写真が撮れそうだね
 案内板によると、ここへ来る間の杉並木が旧中山道の面影を残す街道筋だという。二百体近い石仏は、明治期の国道開削、鉄道敷設の折、奈良井宿周辺に点在していたものをここに集めたものだという。

 とても雰囲気が有り、ここも観光スポットとしても十分だと思うのだが、なぜか静かで人気が無く、観光客は駅からこっちには来ないのだなあ。

 まあ、ちょっとヘンな考え方をすれば、恐い場所に感じるのかもしれないが。



 

並ぶ石仏には統一感が有る


静かに石仏は佇む 



 二百地蔵のお堂の裏手から「八幡宮」の境内に出れた。
二百地蔵へ向かう杉並木の始まりに、この八幡宮の赤い鳥居が立っていたのだが、後で行こうと思っていた。二百地蔵の境内と八幡宮の境内は、裏でつながっていたのだ。

 八幡さんは御存知だとは思うが「応神天皇」即ち「誉田別尊」(ホンタワケノミコト)を祀る神社。

 神社に参拝をして、石段を下り、赤い鳥居を潜って、駐車場へ向かった。



「八幡宮」の石段





拝殿 


石段を下って赤鳥居を潜る 





土産物屋の「会津屋」でゲットした箒 
 

ランチをした「越後屋」で買った手拭い



 

とても良い場所だった





 「二百地蔵」から「八幡宮」を回り、駅裏の駐車場に来た。さあこれで、「行きたい場所」のひとつである奈良井宿はクリアした。大満足のスポットだった。

 実はこの奈良井宿からの帰り道、国道19号線沿いに、もう一つの「行きたい場所」がある。
それは「平出遺跡」という縄文集落跡と博物館。この日、奈良井宿の見学が終わっても、十分に時間の余裕があった。だから、帰りがてらこの「平出遺跡」にも回ることにした。

 ということで、次稿は「平出遺跡」の報告になります。





「奈良井宿」はお薦めスポットですよ〜!





令和七年 六月吉日 梅雨入りしたが雨は降らない




掲載目次へ


獨笑のTOPへ
戻る

インデックスへ
戻る