苦節四十年 保安部長大田圭之助
第83号(平成8年/西暦1996年)
「何だ、何だ、そのへっぴり腰は!…もっと腰に力を入れんかい」「オイ!そんな小さな丸太を二人で担(かつ)ぐ奴があるか、男なら土性骨(どしょっぽね)入れて担げ、女の子に笑われるぞ」。朝早くから、本山道場において若手を指導する気合いのはいった厳しい声がとんでくる。声を聞いたら誰もが、〝ああ、あの方だ〟と、ぴんと感じる保安部長の大田圭之助先生だ。初めて部長に会った方なら訳も判らず、部長の一言でびびってしまう。しかし、部長を知り部長とともに常に修行に努めている者なれば、部長の一言一言が、味のある優しい励ましの声と感じる。部長は元来、お世辞事が大嫌いである。また自分の自慢話もした事がないが、本山の御用事となると、命がけの忠誠を発揮する。尚、部長は半身不随という障害を受けているが、三、四十kg程の重荷のものなら、片手でふり回す程の豪傑である。その部長に、部長の本山に於ける修行について語って頂いた。 二十歳頃の事、村の仲間と山林業で、ある山の立木の伐採に行ったところ、他の人の切った材木が部長の上に倒れてきて、その木の下敷きとなり、首の骨を折ったという。それから全身不随という医者の診断とともに部長の地獄のような苦しみが始まった。
何年、何十ヶ月、右にも左にも向くことができず、寝返りもできない寝たままの生活。頭のてっぺんから足の先まで毎日毎夜、戦慄にも似た激痛が走る。言葉がもつれる。誰にも語ることができない。いつ全治するともわからぬ出口の見えない世界に心が沈んでいく。やけっぱちの心だけが日にすさぶ。そのような日々を送っていたある日、
『身内の者の願いで、神直先生のおそばに置いていただくようになったんだが、毎日が痛みと苦しみ、悲しみのある私には、有り難い先生のお傍であっても、ただ、場所が変わっただけのようなものでしかなく、先生の優しい救いの言葉も、悲しいほど腹立たしく感じたこともありました。誰かが見舞いに来てくれても、有り難い気持ちより、歩ける人に対する〝ねたみ〟が先に心の中に反感となり燃えあがりました。
先生の奥様にも、身に余る御恩をいただきつつ、ご無礼ばかり重ねました。父もなく、母もなく、妻子さえ、私の横暴に愛想をつかして、出て行ってしまった今、私には奥様様だけが、唯一の味方の様でありました。それなのに、私はその奥様にさえ、さんざんな我儘を通しました。手足のきかぬ私は、奥様の顔に何度も唾を吐きかける傍若無人ぶりを発揮しました。それなのに奥様は私を叱らずに、私の哀れな姿に涙さえ流して下さいました。私はまた、その奥様の優しさに腹がたちました。何度も何度もご迷惑をかけました。
そのようなある日、神直先生は私を見て「お前、死にたいか」と、聞かれました。私は、もつれる言葉で、「殺して」と、叫びました。先生は、「殺す訳には参らぬが、楽に死ぬ方法を教えてあげよう」と申され、「死にたくば、わしの言う通りにやってみよ。動かぬ足・動かぬ手に念をかけて、動く動くと心で思いながら動かすよう努力せよ。両手両足が動かなくても、どちらかが少しでも動くようになれば、そのはずみで、心臓が破裂して、安楽死するだろう……。今のその口ばかりでは、因縁霊にとらわれていつまでたっても、死なないだろう」と、申されたのです。
それからが私の努力の始まりでした。先生に教えられた死ぬための努力の結果、それが今の私です。それから後、いろいろと先生から死ぬ為の方法をご教示いただきました。ところが、不思議と一つ一つ完成するごとに、私の心身が変わってきました。いつの間にやら、片手片足の不自由がありますが、立って歩くようになっておりました。
今、振り返りますと、再起不能という重傷を負ってから40年。神直先生から色々と、死に対する努力として、お役をいただくようになってからも何十年、現在、最愛の妻、最高の娘にも巡り会い、あれだけ求めていた死の世界を解脱して、蛇之倉七尾山の保安部長という大役を賜っている私。今日のこの喜びに感謝して、二度と、私のような苦しみある人を、他に作らない為にも頑張らせて頂きたいと日々努力いたしております。先生から保安部長というお役を頂いた時、「私のような者が…」と思いましたが、考えてみると私の身命をかけて、蛇之倉山の御信者衆を守らせて頂ける道だと思って、喜んで拝受させて頂きました。尚、役務を果たさせて頂くことは、人の為より、まず自分の為であることもよく判らせて頂きました』。 合 掌
以上、大田圭之助先生からうかがったものですが、大田先生は保安部というお役を拝命されてから、常にお山の興隆を願い、本山企画部の活動を助け、白髭大神様安置の境内地の拡張、孔雀明王堂の難工事、孔雀門の大境内地、並びに参拝道の補修にと、至誠を以って敢行下さいました。御身の不自由さを克服して、蛇之倉山の興隆に赤心を以って常に寄与下さる保安部長に、感謝の編集報告をさせて頂きます。 合 掌